社内の情報を生成AIで活用したくても、データが部門ごとに分かれ、更新状況もそろっていおらず、何から見直すべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。AIに必要な情報を渡すには、データを保存する場所に加えて、品質や利用権限を管理する仕組みが必要です。
この記事では、AI-Readyなデータ基盤の意味と必要な要件、整備の進め方を解説します。既存のシステムを踏まえ、情報システム部門や現場と確認する点を整理しましょう。
AI-Readyなデータ基盤とは?

AI-Readyなデータ基盤とは、AIが利用できる状態でデータを管理し、必要な情報を供給する仕組みです。保存したデータをAIへつなぐだけでなく、品質や更新状況、利用できる範囲も整えます。
AI-Ready Dataが指すのは、AIの利用目的に合わせて使える状態に整えた「データ」です。これに対し、データ基盤はそのデータを継続して管理・供給する「仕組み」を指します。
データに求められる要件や整備方法については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
従来のデータ基盤だけでは対応しきれない理由
人がBIツール(データを集計・可視化するツール)で結果を確認する場合と、AIが情報を取得して回答する場合では、必要な更新頻度やアクセス方法が異なることがあります。
例えば、現在の在庫を答えるAIを想定してみましょう。前日のデータしか参照できなければ、その後の入出庫が回答に反映されないおそれがあります。確認したいのは、対象業務に必要な新しいデータをAIが取得できるかという点です。
ただし、既存の基盤が一律に使えないわけではありません。現在の更新方法や接続経路を確認し、不足する部分を見直しましょう。
データパイプラインやRAGとの違い
AI-Readyなデータ基盤、データパイプライン、RAGの役割の違いは、次のとおりです。
- AI-Readyなデータ基盤:AIが利用できる状態でデータを管理・提供する仕組み
- データパイプライン:基盤の中でデータの収集・変換・転送をつなぐ処理の流れ
- RAG(検索拡張生成):外部情報を検索し、回答の生成に利用する手法
パイプラインやRAGを導入するだけで、AI活用の準備が完了するわけではありません。参照するデータの品質・更新・利用権限も管理する必要があります。
AI-Readyなデータ基盤に求められること

AI-Ready化に向けて自社の基盤を見直す際は、統合・接続、鮮度と自動化、品質・利用ルール、セキュリティ、拡張性の5つの観点で確認しましょう。
ここでは、データ基盤を整えるうえで必要なことを整理します。
多様なデータを統合し、AIが利用できること
AIで使う情報は、売上や在庫などの構造化データに限りません。用途によっては、文書や画像、音声などの非構造化データも必要になります。AIで使う情報は、売上や在庫などの表形式のデータに限りません。用途によっては、文書や画像、音声なども必要になります。部門やシステムごとに情報が分かれている場合は、まず所在を把握し、必要なデータを横断して利用できる状態を目指します。
整えて保存した後には、AIが情報を取得するための接続経路も必要です。
次の流れで、自社がどこまで対応できているかを確認しましょう。
- 各システムのデータを統合する
- 整えたデータをAIが取得する
データの収集・加工・更新を自動化し、必要な鮮度を保てること
情報の収集から加工、更新内容の反映までを担当者が毎回手作業でおこなう運用は見直しが必要です。処理の実行順序や、先に終える必要がある処理との関係も含めて自動化します。
ただし、自動で更新されることと、必要な新しさが保たれることは別です。最新のセンサー情報などを使う業務では、変化を速やかにAIへ届けることが重要になります。
更新方法は用途に合わせて選びます。一定間隔でまとめて処理する方法と、発生したデータを順次処理する方法を検討し、どの程度の遅れまで許容できるかを現場と確認しましょう。すべての情報を一律にリアルタイム処理へ変えることを出発点にする必要はありません。
データ品質と利用ルールを管理できること
データ品質を確認する際の基本は、正確であること、必要な情報が欠けていないこと、表記や内容に矛盾がないことです。取り込み時の確認や定期的な修正に加えて、データの意味や出所を把握できるようにします。
また、どのデータを誰が、何の目的で使えるかを決める必要があります。こうした品質や利用を管理するルールと体制が「データガバナンス」です。管理責任を明確にし、保管や削除などの扱いも整理しましょう。
数値が正しくても、何を表す値なのか、どの業務に使ってよいかが分からなければ、利用の判断ができません。品質とともに、意味や利用条件を確認することが大切です。
問題の経緯を調べられるよう、履歴も残します。ただし、元データからの加工履歴と、基盤の設定を誰が変更したかを示す履歴は、別々に管理する対象です。
セキュリティとプライバシーを確保できること
機密情報や個人情報を扱う場合は、権限のない相手へ情報が渡らないようにする必要があります。前項で定めた利用ルールを、実際の仕組みで守るための対策です。
まずは、AIが取得できるデータの範囲を用途に応じて制限します。利用を認める情報と認めない情報を整理したうえで、基盤のアクセス制御に反映しましょう。
データ量や用途の変化に合わせて拡張できること
AIを使う業務が増えると、処理するデータの量や負荷も変わります。限定した業務から始めても、後から利用範囲を広げられるかを確認しておきましょう。
利用範囲を広げる際には、増える処理量に応じて、サーバーなどの計算資源も確保する必要があります。
その方法の一つが、必要に応じて計算資源を増減できるクラウドの活用です。ただし、クラウドの採用自体を必須条件とせず、既存の環境や今後の用途に合う構成を選びましょう。
AI-Ready化を目指すデータ基盤整備の5ステップ

データ基盤の整備に取り組む際は、企業全体のAI活用がどの段階にあるかも把握しておきましょう。経団連が2019年に公表した「AI-Ready化ガイドライン」では、企業のAI活用の成熟度を次の5段階で示しています。
| 段階 | 企業全体の状態の目安 |
|---|---|
| 1:AI-Ready化着手前 | AIとデータを使った事業運営などに未着手 |
| 2:AI-Ready化の初期段階 | 小規模な活用を始め、経験を積む |
| 3:AI-Ready化を進行 | 既存業務の自動化を進め、戦略的な活用にも着手 |
| 4:AI-Ready化からAI-Powered化へ展開 | 中核事業の価値を高めるためにAIを活用 |
| 5:AI-Powered企業として確立・影響力発揮 | AIとデータを用いて事業・業界の刷新に取り組む |
参考:経団連「AI-Ready化ガイドライン」(2019年)をもとに整理
この成熟度は、経営や人材も含めた企業全体の状態を表し、データ基盤だけを評価するものではありません。評価観点の詳細は、こちらの記事で解説しています。
ここでは、データ基盤の整備作業を5つに分けた手順を解説します。なお、成熟度の5段階と一対一で対応するものではありません。
ステップ1:データの現状を把握し、取り組む業務を絞る
まずは社内データの保存場所、形式、更新頻度を調べます。あわせて、必要な項目の欠損や重複、利用時に情報を取り出せない箇所も確認しましょう。
調べた内容をAIで取り組みたい業務と照らし合わせ、優先する業務と必要なデータを決めます。最初から全社のデータを一斉に整備するのではなく、対象を絞ることが出発点です。
ステップ2:データの所在・意味・利用ルールを整理する
対象データの場所、内容、使い方を一覧にした「データカタログ」を用意します。データ自体を説明する「メタデータ」は、必要な情報を探し、その意味を理解するための手がかりです。
カタログには、管理の責任者や利用権限、更新のルールも整理しましょう。所在を一覧にする作業と、利用条件を明らかにする作業をあわせて進めます。
ステップ3:欠損・重複・表記のばらつきを整える
対象業務に必要な項目を確認し、抜けた情報、重複した記録、表記のばらつきを修正・整理します。こうした品質改善の作業を「データクレンジング」といいます。
誤りや不整合がある情報を使うと、AIの分析や回答の信頼性に影響します。ステップ1で絞ったデータを優先し、使う見込みのない情報まで過剰に整備しないことも大切です。
ステップ4:データを統合し、AIへ提供する基盤を構築する
対象データを集め、整えて管理し、AIが取得できる仕組みを構築します。全体の流れは次のとおりです。
- 収集
- 整形・管理
- AIへ提供
この構成要素とつながりの全体設計が「アーキテクチャ」です。データの種類や量、更新頻度、既存システムとの連携に合わせて構成を検討しましょう。
利用権限やAIからの接続経路を組み込み、限定した業務で動かします。必要な情報を取得できるか、権限の範囲が適切かを確かめる段階です。基盤の大きさではなく、対象業務で使えることを判断の基準にしましょう。
ステップ5:品質と利用状況を確認し、継続的に改善する
構築後も、品質や更新状況、AIからの接続に問題がないかを確認します。障害や品質の問題を見つけたら修正し、必要に応じて利用ルールも見直しましょう。
AIの利用状況と照らし合わせ、データ供給の滞りや、データの問題による回答への影響も調べます。対象データや利用業務を広げるかどうかは、運用で分かった効果と課題を踏まえて判断することが大切です。
AI-Readyの実現に向けた組織・人材面の3つの対策

AI-Readyの基盤を整えるには、システムの設計だけでなく、使う目的を決める人や、日々データを管理する人の協力も必要です。社内の連携、教育、外部支援の活用をあわせて検討しましょう。
ここでは、AI-Readyの実現に向けて押さえたい3つの対策を解説します。
経営層・情報システム部門・現場が連携して進める
経営層には、AI活用の方向性を示し、必要な投資や取り組みを支える役割があります。情報システム部門だけに任せず、AIを使う事業部門や現場も交えて進めましょう。
打ち合わせでは、対象業務と必要なデータを関係部門で具体化します。情報システム部門が接続・運用を検討し、現場がデータの意味や業務上の使い方を確認するなど、役割を整理しましょう。試行の結果も共有し、技術の導入と業務で使う目的が離れないようにすることが大切です。
AIとデータを扱うための社内教育を進める
専門家の確保に加えて、データを扱う社員の理解を高める取り組みも必要です。研修や教育、啓発活動を通じて、AIの基礎と社内でのデータの扱い方を共有します。
特に、どの目的・範囲で利用できるか、保管や削除などをどう行うかは、社内ルールとして周知しましょう。経営・管理職と実際に利用する社員の双方が理解し、業務で守れる状態を目指します。
不足する専門知識は外部の支援で補う
基盤の設計やデータ連携の実装など、社内だけでは進めにくい部分を切り分けて、外部への相談範囲を決めましょう。
データの意味や業務上の利用目的は、自社側で整理しておく必要があります。支援先を選ぶ際は、導入後の運用方法や知識を引き継げるかも確認しましょう。自社で担う部分と支援を受ける部分を明確にすることが大切です。
また、自社のデータをAIで活用したいものの、専門知識や開発体制に課題がある場合は、外部の支援を活用する方法もあります。
アラヤの「オーダーメイド型AI開発」では、現場の課題に応じたAIの活用方法の検討から、設計・開発まで支援しています。詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ:AI-Readyデータ基盤は対象業務を絞って整備を進めよう
- AI-Readyなデータ基盤は、AIが利用できる状態でデータを管理・提供する仕組み
- データの統合・更新・品質・利用ルールなどを確認し、現状把握から運用改善まで進める
- 基盤の整備には、部門間の連携とAI・データを扱う人材の教育も必要となる
AI-Readyのデータ基盤を整備する際は、データを集めるだけでなく、意味や品質、更新状況、利用できる範囲を管理することが重要です。
業務を理解する現場と、基盤を整える情報システム部門、方針を決める経営層が連携し、運用後も改善を続けます。社内教育や外部支援も組み合わせ、利用と管理を続けられる体制を整えましょう。
まずはAIで取り組みたい業務を1つ選び、その業務で使うデータの保存場所・形式・更新状況を確認することから始めましょう。


