AIを業務に取り入れたいと考えても、データの整備から始めればよいのか、経営層や現場にも協力を求めるべきなのか、迷うことはないでしょうか。
日本経済団体連合会(以下:経団連)の「AI-Ready化ガイドライン」は、企業がAIを活用するための準備を、5段階のレベルと4つの項目で整理した指針です。システムやデータに加え、経営層、専門家、従業員が目指す状態を確認できます。
本記事では、AI-Readyの意味や各レベルの違い、自社の準備状況を見るための4項目を解説します。
AI-Readyとは?ガイドラインが示す考え方

AI-Readyを理解するには、AIツールの導入と、AIを活用するための準備を分けて考えることが大切です。
まず、言葉の意味とガイドラインの対象を整理しましょう。
AI-Readyとは、AIを活用するための準備が整った状態
AI-Readyとは、AIを活用するための準備が整った状態です。
企業における準備には、システムやデータだけでなく、人材、業務プロセス、組織のあり方も含まれます。AIツールを導入することに加え、目的に沿って使える体制を整えるという考え方です。
AI-Ready化ガイドラインの位置づけと対象
経団連は2019年2月19日、「AI活用戦略~AI-Readyな社会の実現に向けて~」を公表しました。その第Ⅲ章が「AI-Ready化ガイドライン」です。対象は企業、個人、社会制度・産業基盤に分かれており、本記事では企業向けの内容を中心に扱います。
企業向けのガイドラインでは、AI活用の成熟度を5段階に分け、経営・マネジメント層、専門家、従業員、システム・データの4つの観点から必要な取り組みを整理しています。
例えば、システム・データの観点では、分析に利用できるデータの取得や、データ基盤の整備などが挙げられています。AI活用を進める際は、データの整備だけでなく、経営戦略や人材育成と併せて取り組むことが重要です。
企業全体の準備の一部を担うのが、AIが利用できるデータの整備です。データを整える際も、組織や人材の準備と併せて考えましょう。
AI-Readyなデータに求められる要件や整備の進め方について、詳しくはこちらの記事で解説しています。
AI-Readyが注目される理由

AI-Readyを考える背景には、業務効率化にとどまらず、AIを事業の変革につなげるという期待があります。経団連が示すのは、蓄積したデータやAIを生かして、製品・サービスや事業の構造を変える方向性です。
そのためには、AIを使う側の準備も欠かせません。データを分析できる形で収集できない、複数のシステムから得たデータを連携できないといった状態では、業務への活用を進めにくくなります。
AI-Ready実現には、システムに加え、人材や業務プロセス、組織の準備も必要です。AIの機能を選ぶだけでなく、自社の事業で使える状態に整えましょう。
AI-Readyの進展状況は5段階に分類される
AI-Readyガイドラインは、企業が目指す状態を5段階に整理しています。
一部の業務で経験を積む段階から、全社で活用し、さらに他社との連携や業界の変革へと進む流れを解説します。
レベル1〜5で見るAI活用に向けた準備の進展
AI-Readyガイドラインにおける5段階の違いは、「AIを導入したかどうか」だけでは決まりません。事業での活用範囲や、経営・業務にどこまで組み込まれているかも確認が必要です。
| レベル | 段階 | 企業の状態・目指す変化 |
|---|---|---|
| 1 | AI-Ready化着手前 | AIの方法論の議論が先行し、AIとデータを使った事業の運営・刷新・創造には着手していない。 |
| 2 | AI-Ready化の初期段階 | 一部の業務でAIを使い始め、小さな成果や失敗を通じて経験を積んでいる。 |
| 3 | AI-Ready化を進行 | 個別のプロセスを共通化して全社に広げている。既存業務の自動化にめどをつけ、成長や事業刷新にもAIを活用し始めている。 |
| 4 | AI-Ready化からAI-Powered化へ展開 | AIを経営戦略の立案や経営判断に使い、コア事業の課題解決や価値向上を進めている。 |
| 5 | AI-Powered企業として確立・影響力発揮 | AIを通じて経営判断を高度化し、他社との連携を進めながら、業界そのものの変革を主導している。 |
※「AI 活用戦略」本文p.18〜25 をもとに要約
これらは、企業の行動指針として設けられた定性的な目標です。認証の取得や合否の判定に用いる基準として読むのではなく、自社の取り組みと目指す状態を比べるために使います。
なお、レベル1でも、基本業務のシステム運用やデータ管理はおこなわれています。「システムもデータも存在しない状態」という意味ではありません。データがあることと、それをAIによる事業運営や刷新に生かしていることを分けて捉えましょう。
AI-Ready化からAI-Powered化への発展

AI-Ready化はAIを使うための準備であり、AI-Powered化はAIによって大きな価値が生み出される状態を指します。準備を整えること自体が最終目的ではありません。
前の表にある業務の自動化、経営判断への活用、事業の刷新は、AI活用を通じて目指す変化です。自社が何を実現したいのかを踏まえ、そのために必要な準備を考えます。
ただし、AIはどのような条件でも正しい結果を返す万能なツールではありません。ガイドラインの前提となるAI活用原則でも、経営層から従業員、利用者まで、AIを適切に理解する必要性が示されています。特性や限界を理解したうえで活用を進めることが前提です。
ガイドラインで確認する企業のAI-Ready化の4項目
5段階が「準備の進み具合」を示すのに対し、4項目は「何を確認するか」を示します。対象は、経営・マネジメント層、専門家、従業員、システムレベル・データです。ツールの導入状況だけでなく、それぞれの目指す状態に照らして自社の準備を見ていきます。
経営・マネジメント層:AI活用を経営戦略に組み込めているか
経営層については、AIの活用方法や特性、限界を理解し、AIとデータの活用を経営戦略に組み込めているかが確認点です。経営層については、AIの可能性や限界を理解し、事業でどう使うかを経営戦略に組み込めているかが確認点です。
初期段階では、AIの方法論の議論が先行したり、AIへの理解は進んでも経営戦略には組み込めていなかったりします。個別の取り組みを応援するだけでなく、AI活用で何を目指すのかを定めることが課題です。
レベル3では、AI活用を経営戦略に組み込み、全社で推進する状態が示されています。研究開発や活用への投資、幹部社員への教育も、その取り組みの一部です。個別の取り組みにとどまらず、経営戦略の中でAI活用の目標を明確にし、全社で共有しましょう。情報システム部の検討と並行して、経営として何を目指すのかを共有しましょう。
専門家:AIを分析・実装する人材を確保できているか
専門家の項目で確認するのは、AIやデータを理解し、自社の業務に合わせた分析や、システムへの組み込みを担う人材の有無です。
レベル1では、データの分析や活用基盤を支える人材の不足が示されています。レベル2は、社内にAIとデータを理解する人材がいて、外部の専門家と協力しながら既存の技術を業務に適用する段階です。
レベル3では、社内にAIやデータの分析・実装を担う人材が相当数おり、独自の知見や研究を生み出す人材も存在する状態が示されています。レベル3では、社内でも分析・実装を担い、独自の知見や取り組みを生み出す人材がいる状態が描かれています。この違いから分かるのは、最初からすべてを自社だけで開発することが前提ではないということです。外部の力を活用する段階も含めて、自社に必要な役割を考えましょう。
従業員:AIを理解し、実務で活用できているか
専門家を確保することに加え、実際にAIを使う従業員の理解と活用状況も確認します。対象は一部の担当者だけでなく、管理職からスタッフまでの幅広い層です。
ガイドラインの初期段階では、経験や勘、個人に依存した対応が中心の状態や、AIの基礎を理解する人が一部に限られる状態が示されています。
レベル3で目指すのは、従業員への教育を実務での活用につなげることです。活用の手順やツールを整え、それを教育にも用いる方向性が示されています。研修の実施状況と併せて、学んだことを業務で使うための手順があるかを確認しましょう。
システム・データ:必要なデータを取り出し、活用できるか

システム・データの項目では、保有量だけでなく、必要なデータを取り出して分析・活用できるかが確認点です。
レベル1では、データの取り出しや統合、クリーニングに長い時間を要する状態が示されています。準備が進まない状態として、ガイドラインはデータの取り出し、統合、整理に長い時間がかかる状況を挙げています。システムごとのデータを連携できないことも、活用を妨げる課題です。
レベル2では分析できる形でデータの収集を始め、レベル3では分析用の基盤整備と業務システムとの連携へと進みます。さらにレベル4で示されているのは、業務に関わる大半のデータをリアルタイムに近い形で取り出し、活用する状態です。
自社の用途に照らし、取得・分析・連携のどこに課題があるかを確認しましょう。
AI-Readyに向けたデータ作りで押さえたい3つのポイント
ここでは、AI-Ready化におけるデータ活用環境とその管理に関わる準備を具体化します。確認するのは、利用目的に合う品質、分析・活用できる形式、管理体制の3点です。
利用目的に合う内容と品質であるかを確認する
AIに利用するデータは、活用目的に合う内容と品質であるかを確認しましょう。AIの特性や用途を踏まえ、データの正確性や完全性に留意することが重要です。
データの選別・整理やラベル付けの精度も、AIシステムの性能に影響します。ラベル付けをおこなう場合は、その精度やきめ細かさも確認点です。
また、用途によってはデータの最新性も求められます。AIの開発時には、データの品質や安全性を確保する対策の一例として、タイムスタンプの確認も挙げられています。
データを分析・活用できる形式に整える
データは保存するだけでなく、必要な用途に応じて取り出し、分析できる形に整えます。ガイドラインが示す準備の方向性は、次の3点です。
- 分析・活用できる形でデータを取得・収集する。
- 業務に使う基盤に加え、分析のためのデータ基盤を整える。
- 業務システムと分析システムを連携させる。
情報システム部で検討する際は、保存先だけでなく、取得したデータを分析に使うまでの流れに沿って、不足する仕組みを整理しましょう。ここでの確認対象は、特定の製品ではなく、収集・分析・連携を支える環境です。
管理する担当者と、利用・更新のルールを明確にする
データを継続して使うには、品質を維持する仕組みと、利用できる範囲についての整理も必要です。
企業間でデータを共有する際のポイントは、契約によって利用権限を定めることです。個人に関するデータでは、活用と保護のバランスを確保した環境の整備が求められています。なお、これらは2019年の提言が示した方向性です。現在の法的義務を網羅する一覧として扱うものではありません。
また、すべての企業に同じ組織や役職の設置を求めるものではありません。自社でも、誰が管理に関わり、どの範囲でデータを利用するのかを整理する参考にしましょう。
こうしたデータの管理体制や利用ルールの整備は、AIガバナンスを考えるうえでも重要です。データの利用範囲や管理責任を明確にし、適切に運用できる体制を整えましょう。
データの収集・連携・運用を支える仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
まとめ:AI-Ready化ガイドラインで自社の準備状況を確認しよう
- AI-Ready化には、ツールやデータに加え、経営・人材・業務を含めた準備が必要となる
- 5段階のレベルは、企業がAI活用を進めるために目指す状態を示す
- 自社の準備は、経営・マネジメント層、専門家、従業員、システム・データの4項目で確認する
AI-Ready化は、ツールやデータを整えるだけでなく、経営方針や人材、実務での活用も含めて進める取り組みです。5段階のレベルで目指す状態を捉え、4項目に沿って準備状況を整理すると、情報システム部で進めることと経営層や現場と相談することを分けて考えられます。
まずは、4項目に沿って「自社でできていること」と「不足していること」を書き出してみましょう。
参考:

